お目が高いって言われたい!〜アメリカ在住MD PhDの映画日記〜

映画を見る合間に膠原病の研究をしています

Lotna ロトナ(1959) @ Dryden Theater

35mmフィルム上映

監督:アンジェイ・ワイダ

ロチェスターでは10月下旬にRochester Polish Film festivalが開催される。日本でやってるポーランド映画祭に比べるとだいぶ小さい(日本はスコリモフスキが協力してるからね!)が、昨年はFillip(日本でもその後公開された)という映画がなかなか面白かった。

今年の一本目がこのロトナで、アンジェイ・ワイダが『灰とダイヤモンド』で世界的評価を得た次の作品ということになるのだが、なかなか上映される機会の少ないレアな作品でもあるし、内容もなかなかにキテレツな怪作となっている。

第二次世界大戦下に、馬と刀で戦いを挑む騎士達と、突然現れた芦毛の馬ロトナを描いた映画になっているが、歴史的事実としては、ポーランドにこのような騎兵隊は大戦中には存在しなかったということで、これはまったきフィクションということになる。また、騎兵隊の一人が、村の美女と結婚する挿話があって、村で結婚式を(葬式の横で!)行うのだが、何とそのまま花嫁がドレスを来たまま騎兵隊と行動をともにするのだ!!

戦車に向かってHorrayyyy!!と叫びながら刀を持って走っていく玉砕ぶりをみると、たとえばワルシャワ蜂起(あるいはその精神)の何かなのか、とか考えたくもなるのだが、当時も戦争の美化としてずいぶん批判されたらしい。ワイダといえば1990年の『コルチャック先生』(撮影はロビー・ミュラー)においても、最後に収容所に送られる子供達とコルチャック先生が、光の方へと幸せそうに歩いて行くという寓話的終わり方をしていて、これも当時ずいぶん賛否両論だったそうだが、リアリズム、シンボリズム、ロマンティシズムの間で色々もがいていた作家なのだと思う(『カティンの森』に代表される晩年の傑作群は到達点だろう)。

それにしても、1958年という段階で、このような「戦争映画」を、『灰とダイヤモンド』の次に作るワイダという人は、あの優しそうな笑顔とは裏腹に、相当ヤバい奴だとしか言いようがない。

実はあらかじめアナウンスがあって、プロジェクターの故障で、一つのプロジェクターしか使えず、20分に1回ぐらい1分ぐらいの幕間があるという、ちょっとノリづらい鑑賞になったのだが、あえてポジティブにとらえれば、この映画が断片的な挿話と、それを芦毛の馬が橋渡しする構造になっていることと意外とマッチしていて、一個一個のフィルム(!)にその都度フレッシュな感覚で向き合えたような気がする。

ということでまったくもって大ホラ話なのだが、演出はかなり抑えが効いていて、全然嫌らしくない。

結婚したカップルが部屋に入ったところ、死んだ負傷兵がベッドに寝ていてハッとする。そのままカットが割られて、部屋の外でバイオリンを弾く初老男性が窓枠を通して映され、負傷兵を楽しませてやろうという感じで部屋の方に近づいてくるのだが、負傷兵が死んでいることに気づき、そのまま背を向けてバイオリンを弾きながらどっかへ行ってしまう。これなんかも実に印象深いシーンだ。(窓の多用は注目すべき特色だろう。)

また美しいカラーのシーンとセピア色のシーンが混ざっていて、これが「現在と過去」のような明確な区別があるわけではなく、同じシーンで突然セピアになったりする。こういうのもよくわからないのだが、もう一つの特色として、この映画にはドイツ兵が一回も出てこないし、正規の(?)ポーランド兵とのやり取りもない、というとこからしても、ホラ話であると同時に、どこか幽霊的な感じがする映画でもある。ワイダはやっぱり面白い。