監督:ジャック・オディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カリア・ソフィア・ガスコン、セレナ・ゴメス、エドガー・ラミレス(!)、アドリアナ・パス
脚本:ジャック・オディアール、レア・ミシウス(!)、トーマス・ビデガン、ニコラ・リベッキ
製作:ダルデンヌ兄弟(!) etc
撮影:ポール・ギヨーム
私はジャック・オディアールという人は、全然フォローしていなくて、しかし唯一2019年の『パリ、13区』だけは見ている。『パリ、13区』は、セリーヌ・シアマ、そしてレア・ミシウスと、今をときめくフランス若手作家が脚本に参加した映画で、とにかく役者の顔が大変良く、お気に入りの一本である。で、本作もどうやらレア・ミシウスが加わっており、また撮影もミシウスとずっと仕事をしているポール・ギヨーム(パリ、13区でも担当)が担当している。オディアール x ミシウスのコラボが今後も続くならとても楽しみだ。
ちなみに本作はメキシコの麻薬カルテルによる誘拐、殺害が題材となっているが、『母の聖戦』という数年前に製作された映画では麻薬カルテルに息子を誘拐された母の奮闘が描かれており、なんと製作にクリスチャン・ムンジウ、ミシェル・フランコ、そしてダルデンヌ兄弟といったビッグネームが連ねており、本作もまたダルデンヌ兄弟が製作に入っている。
さて、物語はいちいち説明すると時間がかかってしまいそうなので省くが、キェシロフスキが今一度デカローグをつくったら、こんな話があるかもしれない、というような、パーソナルな話とスケールの大きい話が交錯する「モラルドラマ」を、ミュージカル仕立てで撮った作品だ。
とびきり良いシーンとダメなシーンが入り混じっていて、振れ幅が大きい。前半はどちらかといえば夜のシーンが多いのだが、発色が悪く、あまり色彩的な楽しさがミュージカルパートに見られないのが残念だ。ピンクの服を着た清掃員がバックダンサー的に出てくるパートも、物足りない。あんまり色彩的なこだわりはないのかもしれない。パーティ会場でゾーイ・サルダナが踊る場面は、赤いジャケットで魅せるが、カメラワークがあまりに軽く、ミュージック・ビデオ感が強い。
ミュージカルパートで言えば、テルアビブでのサルダナと医師が歌う場面は、単純にスコアが良い。娘が歌う「papa」も室内プラネタリウムが、いつか見た星空と重ねられて感動的である。しかし全体として、はっきりいってミュージカルパートよりも普通のシーンの方が良い。
撮影も、中盤に舞台が再びメキシコに移動してからは、メキシコの陽光が画面に定着しており、俄然良くなったと感じた。あと、『パリ、13区』からの流れで言うと、空撮(ドローン)のセンスが良いというか、なんというかノリが良い。とにかく明るい。胡散臭いとも言えるかもしれないが。
ソフィア・ガスコンとセレナ・ゴメスが、夜に過去の話をするシーンは、室内照明がピタっと決まっていて、フルショットも美しい。
しかしとりわけ素晴らしいのが、アドリアナ・パスとソフィア・ガスコンが出会うシーンだ。ナイフを見せることで、二人の距離にサスペンスが生まれ、そうかと思えば高低差をつけた二人のやり取りで終わる。このシーンだけで全部許してしまいそうなほど、見事な演出である。
上述したように、星空がひとつのモチーフになっている。トンネルのライト、黒のバックに次々現れる遺族の顔。ちなみに最後は曇り空で終わる。
★★★★★★★☆☆☆