アメリカ在住MD PhDの映画日記

映画を見る合間に膠原病の研究をしています

罪と罰 @Dryden Theater

監督:ジョセフ・スタンバーグ

出演:ピーター・ローレ

 

1935年にコロンビア社で製作された作品。この頃はコロンビアで、いわゆる古典文学の映画化が結構行われていたそうだ。

ラスコリニコフを演じるのがピーター・ローレで、マジで全編、佐藤優にしか見えなかった。

ほとんど逆光で顔が隠れた卒業生のなかから、首席として名が呼ばれるとピーター・ローレが前に歩み出て顔が見える、というオープニングが結構印象的で、これがラストに彼が自首する場面において鏡合わせの構図で反復される。ピーター・ローレ姉の結婚相手をものすごい勢いで罵る場面など彼の怪演でもってる面もあるけれども、さすがはスタンバーグ、階段の踊り場で落とし物を探すためにマッチの火をつけると、ラスリニコフとソーニャの顔が照らされ、ほぼ真正面の切り返しで映される場面など的確な演出が随所にあるのも嬉しい。ドアと階段の映画と言えそうだが、ただ何回も出てくるだけという気もする。

悪は存在しない @The Little Theater

監督:濱口竜介

企画・音楽:石橋英子

 

空にカメラを向けて木々を映したトラベリングショットに始まり(枯れ木も混じっていて、冬〜春ということがわかる)、完全にゴダールを真似たクレジットタイトルを、いかにもゴダールっぽいタイミングで出してきて(しかも全部英字なので、映画祭向け??)、そうかと思うと、主人公のおじさんが薪を割っているシーンで赤いトラクターが目につき、東京からやってくる芸能プロダクションのおじさんはオレンジ色のジャケットを着ていたりする。だるまさんが転んだのショットは、ゴダールの決別で似た様なショット見たぞ、という(あちらほど美しくないけれども)。

終盤には、女性が怪我して赤い血が出ている手のひらのクローズアップを映したかと思うと、今度は湖面を映してティルトアップして沈みかかった夕陽。という連鎖がおーーって感じ。

もっといろんな細部があるんでしょうが、なんでしょう、映画研究者・濱口竜介の展示会みたいなノリで見てしまうところがあって、ショットに浸るという感じにならないのは、自分の問題か。でも全体として、移動撮影より固定ショットの方が決まっていたと思う。

 

ところで、物語の設定など取ってつけた様な、いわば「装置」にすぎない映画ではあるが、それでも近年の映画祭系作品と共通する部分があり、とくにクリスチャン・ムンギウの『ヨーロッパ新世紀』は、他所者と現地人の対立、説明会、迷子、動物などの近しいモチーフがある。

ただ、言ったように、濱口のこの映画ではその表面的な設定自体は偽であって、終盤は全く違う次元へと飛躍していく。それは映画的巧みさ、作家としての聡明さと呼べるのかもしれないけれども、あるいはしょせんは日本であってヨーロッパではないということなのかもしれない。濱口は、ヨーロッパの国境地帯における苛烈な人種差別と暴力を真正面から描こうとするムンギウとはだいぶ異なる地点にいるように思われる。説明会の場面がわかりやすいけれども、緩やかなリズムを志向する濱口と、ノイズとカオスを高めて緊張を強いるムンギウ。

個人的に、『ドライブマイカー』はあまり好きではなく、『偶然と想像』は第一話だけ好き、という感じであまり思い入れがない監督なのだが、いつもながら、抑揚をつけぬ独特の会話が聞いてるうちに音楽的に心地よくなってくる憎らしいほどの巧さには感嘆した(ただ、ちょっと気まずくなってからの、マッチングアプリの通知、結婚話の流れはさすがにベタに流れすぎでは?)。都会のさもしいおっさんが、田舎の生活に目覚めるという安いテレビドラマみたいな展開を匂わせつつ、涼しい顔でそれを突き放してしまう監督が一番性格悪いevilということで。

濱口映画は、いわゆる商業映画として作られたものしか見ていないという前提で、相変わらず「地味で真面目で陰キャだけど、言うべきことは一生懸命言う」みたいな女性像が目立つ。寝ても覚めても唐田えりかの場合は、関西弁のケレンがあったので印象的だったが、三浦透子にしろ、この映画の菊池葉月にしろ、確かにそれは理性的、冷静の表象として、態度のでかい男性像と対比されているのかもしれぬが、この陰キャぶりが映画の発展を阻害していないか。
三浦透子の影に隠れてあまり賞賛されなかった霧島れいかの危うい人たらしキャラの方が個人的には好きだし、なんか映画のスケールを広げるのもこういうキャラクターな気がするのだけどどうか。

 

全編に流れるテーマ曲、てっきりマックス・リヒターの編曲なのかと思ったら、石橋英子さんの楽曲だそう。

★★★★★★★☆☆☆

 

 

 

野望の系列 Advice and Consent @ Dryden Theater

監督:オットー・プレミンジャー

ウォルター・ピジョンヘンリー・フォンダチャールズ・ロートン、ドン・マレー・インガ・スヴェンソン

 

原題のAdvice and Consentというタイトルがとても重要で、大統領の権力は議会のadvice and consentを通じて発揮されるべき(逆に言えば抑制されるべき)という憲法上の用語がそのままタイトルになっている(製作された2-3年前に出版された小説が原作)。

大統領が国務長官アウトサイダーであるヘンリー・フォンダを任命しようとするが、その任命に同意するか否決するかをめぐる議会内の抗争、権謀術数を描く。はっきり言って、ところどころのセリフ、特にチャールズ・ロートンの独特のアクセントによる台詞回しなど聞き取れない部分が多数あったのだが、それでもこれだけの登場人物がいながら一切混乱がない。それぞれの議員のイメージショットというか、例えばドン・マレーであれば家の勝手口に面したリビングで電話をしている光景がとても印象的だし、ワイオミング州議員のポール・マクグラスなら秘書を何人も引き連れている様子など、非常にクリアな描き分けがなされていて、まったくセリフに依存していないのだ。

基本的には地味な会話劇が中盤まで続くが、話の軸がヘンリー・フォンダからドン・マレーの”スキャンダル”へと移行してからは、人物の出入り、動線がより激しくなり、徐々にリズムが高めていく職人芸もまったく素晴らしい。大統領が倒れ、秘書がかけつけ、もう一人の秘書が電話をかける、という場面の呼吸もまったく素晴らしい。

また、中盤のニューヨークの場面は議会の場面とはうってかわって茶目っ気たっぷりの演出で、ドン・マレーがたずねる家の住人(ラリー・タッカー)など愛すべきキャラクターだし、こういう外しの部分もさすがは『バニーレークは行方不明』のプレミンジャーだと思う。

 

 

Wicked Little Letters @The Little Theater

監督: Thea Sharrock

出演:Olivia Colman, Jesse Buckley, Anjana Vasan, Timothy Spall

 

いかにもイギリス映画らしい、階級や品格、人種差別の問題を軽やかに扱った良質なコメディで、大いに楽しんだ。決して、これはという演出があるわけでもないが、しかし前半でジェシー・バックリーが留置所に入れられたあと、決して留置所の中にカメラが置かれないという意志のある演出に見られるように、視点に自覚的な作品作りには好感が持てるし、こうした堅実な演出ゆえに芸達者な俳優陣のパフォーマンスもそのまま楽しむことができる。終盤の手紙をめぐるクライマックスもうまくさばけている。ジェシー・バックリーはいくつかの作品をテレビ画面で断片的に見たことがあっただけだったのだが、いま一番魅力的な俳優ではないだろうか。作品の構成上、後半から物語の重心がオリヴィア・コールマンの方に移るので出番が減ってしまうのが残念で、もっともっと彼女のパフォーマンスを見たかった。

エンパイア・オブ・ライト同様、白い砂がキラキラ光る浜辺の光景がイギリス映画ならでは。真っ白い家の数々も魅力的だし、バックリーの帽子もかっこいい。

 

★★★★★★★☆☆☆

チャレンジャーズ Challengers @ The Little Theater

監督:ルカ・グァダニーノ

ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・フェイスト

 

前半はなかなかのアホ映画だ。ダブルスで学生チャンプとなった二人が、同世代のゼンデイヤに見惚れ、パーティで何とか頑張って知り合って、ホテルでいちゃいちゃしようとするが、その日は3人でキスして終わり(ここもアホらしい)。その後ゼンデイヤの電話番号をかけて決勝を戦い、めでたくジョシュ・オコナーが勝利し、そこから交際するようになる。大学に入ったあとも関係は続き、マイク・フェイストはヤキモチを焼きつつ、彼女が気になってしゃあない。で、とある試合でゼンデイヤの負傷をきっかけに関係が変わり、、という超絶ステレオタイプ青春スポーツ映画になっている。いま書いたあらすじは単線的に直したもので、実際の映画ではクライマックスの対決を起点に幾度となく過去のシーンに戻って、色々とエピソードを挟んでいき、いかにして13年間が経過したか、あるいは13年経ってもいかに成長がないかを描いていく構成になっている。まぁテニスってなかなか映画として盛り上がらないから、こういう構成にするしかないというのはあるだろう。そもそもグァダニーノの主眼は、テニスというスポーツではなく、アスリート同士のホモソーシャルな愛憎を面白おかしく提示することにあるように見える。ゼンデイヤをめぐって争う二人がなかなか良いキャスティングで、特にジョシュ・オコナーは先日見たロルヴァルケル『La Chimera』に続き、人格者とは言い難いながらチャーミングな笑顔で見るものを武装解除するような魅力がある。演出の力点も、イケメンながらワイルドさに欠けるマイケル・フェイストよりは、オコナーとゼンデイヤのエピソードの方が気合いが入っているように思う。特に、オコナーがゼンデイヤにコーチを依頼する場面は、壁際の仰角ショットを使った中々良い演出になっていて、この壁際のやりとりは『君の名前で僕を呼んで』でもやっていたから、グァダニーノとしても好きな手法なのだろう。だが、続いて暴風のなか密会する場面ではライティングがまったく雑で、全然盛り上がらない。全体的におちゃらけた映画で楽しめるのだが、こういう大事なところでもっと頑張らないと締まらないというものだ。

ちなみにお話としては、『突然炎のごとく』に近い三角関係なわけだが、ゼンデイヤのキャラクターに、何をしでかすかわからないという怖さは全くなく、お話を転がす存在にはなり得ていないように思われた(その分男二人のホモソ・コメディにするのが狙いなのかもしれないが)。

 

★★★★★★☆☆☆☆

90年代の映画 個人的ベスト10

物心つく前なので、後に旧作として鑑賞したものばかりです。

 

スウィート・ヒアアフター

トリコロール 白

私の秘密の花

ヒート

羊たちの沈黙

冬物語

フォーエバー・モーツァルト

伴奏者

菊次郎の夏

グッドフェローズ

 

21世紀の映画 個人的ベスト20

バッと思いつくものを。あとあんまり覚えてないのは除外(ミスティック・リバーとか)。決して上から順というわけでもなく。

 

エルミタージュ幻想

未来を乗り換えた男

4ヶ月、3週と2日

ガザの美容室

失われた肌

石の微笑

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若き警官

アイダよ、何処へ?

La Chimera (『墓泥棒と失われた女神』)

愛する人に伝える言葉

カティンの森

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サラエボの銃声

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ザ・スクエア 思いやりの聖域

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チェンジリング