監督:スティーヴ・マックィーン
出演:サーシャ・ローナン、エリオット・ヘッファーナン、ポール・ウェラー、ベンジャミン・クレメンタイン
撮影監督:ヨリック・ル・ソー
どうも撮影が良すぎる、照明が良すぎる、と思ったら、撮影がヨリック・ル・ソーだった。
全編、窓越しに人物を捉えるショットがたくさんあるが、どれも素晴らしい。バスで窓の外に目をやるジョージ(エリオット・ヘッファーナン)と、そのジョージを隣で見つめる母(サーシャ・ローナン)を捉えたショット、また電車での別れ際のショット、いずれも二人の視線が交わらないことがサスペンスを生んでいる(後者については、ほとんど『暗殺の森』じゃないか!と言ったら怒られるか)。
ジョージが「行って帰ってくる」というだけのシンプルなロードムービーに、サーシャ・ローナンのパートが適宜織り交ぜられ、時々過去の回想も挿入される。回想については(サーシャ・ローナンの恋人の顛末も含めて)要らないような気もしたのだが、サーシャ・ローナンは見せ場たっぷりで、相変わらず存在感のある役者だと思う(が、歌唱場面でちょっと声が枯れそうになる、みたいなのはやり過ぎ)。
ジョージのパートも実に素晴らしい。『トゥモロー・ワールド』的に、行く先々で誰かが助けてくれて、ジョージは前に突き進むわけだが、それぞれのシーンが簡潔で、無駄な余韻を残さない。たとえばジョージが列車から飛び降りるシーンでは、列車の乗客が飛び降りたジョージに手を振る様子がロングショットでわずかに捉えられるのだが、映画は決して「誰が振っているのか」を明らかにしない(もちろん、直前の描写で誰が振っているかはわかるが、振っている人間のクローズアップなどは一切ない)。しかし、それゆえにいっそう、「誰かが向こうで手を振っている」という光景にエモーションが生まれる。私はこの場面でかなり武装解除されてしまった。続いて飛び乗った列車で、子供たちと出会う場面では、最初、列車の中は自然光が隙間から入るのみで薄暗く、ほとんど顔が見えないのだが、直後に天窓を開けて列車の上にのぼっていき、とびきりの陽光に照らされた子供たちがお互いを助け合うのだ。ここも本当に素晴らしい。
その後も誰かと出会っては別れるのだが、別れはいずれも簡潔だ。溺れそうになったジョージを誰かが持ち上げてくれるのだが、これも画面上では右から手が伸びてきてジョージを救うのみだ。このご都合主義ぶりはまったく稀有なそれではないか!
黒人の警官(ベンジャミン・クレメンタイン)とのパートはあえて相当暗い照明になっているのだが、これはどうか。いやまったくもって感動的なパートで、このシーンの最後などは涙なくしては見れないのだが。ちょっと宝石泥棒のパートがメリハリを欠いており、このへんで失速した感があって残念ではあった。あと、照明が良いとは書いたが、ポール・ウェラーへの照明は最後まで薄暗くて顔がよく見えない。サーシャ・ローナンとヘッファーナンに特権的な光が当てられているように思う。
そういえば冒頭のホースが制御不能になるところが、おおっとなった。
終盤にドカーン!というスペクタクル描写があるものの、多くのシーンは戦争のスペクタクル化を回避し、廃墟や喪失といった周辺性を保っている。
そこまで期待していなかったのだが、これは快作でしょう。マックィーンといえば、『それでも夜は明ける』や『SHAME』が有名だが、DVDスルーとなった『ロスト・マネー』がめちゃくちゃ面白い。
★★★★★★★★☆☆(ちょっとオマケ)