お目が高いって言われたい!〜アメリカ在住MD PhDの映画日記〜

映画を見る合間に膠原病の研究をしています

"The Strangler"と"Deep Red (サスペリア2)" @ The Little Theater

Rochester, NYのアートハウスであるThe Little Theaterでは、各種のイベント上映が定期的に行われているが、例えばAnomaly Rochesterという怪獣映画やコアなジャンル映画を上映する企画団体と提携したりして、人口20万人の田舎町の映画シーンを盛り上げている。

今回もAnomalyとの提携で、アルジェントなどを代表とするイタリア・ジャーロの特集上映が行われていた。いくつか上映されていたが、今回はタイトルの2本を鑑賞した。

 

◆The Strangler

監督:ポール・ヴェキアリ

主演:ジャック・ペラン

ジャーロは基本イタリアのジャンル映画という認識だったが、フランスでも作られていた。ただし、これをジャーロの一種と見なすかは見解が分かれるかもしれない。ミステリー仕立てではなく最初からジャック・ペランが人を殺し続ける筋立てだし、アルジェントのようなミスマッチな音楽が流れるわけでもない。何より血が流れない。ただし、基本的には女性が狙われ、意味不明なまでに好奇心旺盛な若い女性と、無能だけど憎めない警察官は今回見たDeep Redと共通する。そもそもジャーロをあまり見たことがないので、結論は詳しい人に任せたい。

ヴェキアリはジャック・ドゥミとも仲の良いゴリゴリのシネフィルで、日本でもあまり紹介されていない人だと思う。

孤独をたたえたジャック・ペランが、通りすがりのこれまた孤独な美女を狙って、マフラーで首を絞めて殺すというのが何回かあるのだが、絞め殺している過程をほとんど画面に映さずに、ほとんどマフラーを首に巻いたらそのまま死んでしまうというような、極めて静かな殺人描写となっているところが、本作の美学なのだろう。あるいは、いくら殺しても全く手応えがなくひたすら孤独をつのらせるのみという、ペランの悲壮を際立たせる良い演出とも言えるかもしれない。

ほとんどのシーンで心理的動機付けが皆無なため、観客もみんな大笑いしていたが、とりわけ最後の決闘シーンはさすがに意味不明だった。それでも、電話ボックスのライトブルーと背後の黄色い幕の配色センスだとか、フランス映画らしい趣きもあった。市場のシーンは人々がふつうにカメラの方を見ているというヌーヴェルバーグっぽさもあり。
ところで、フランス映画の警察ほど捜査に行き詰まっている人たちもいないだろう。

 

◆Deep Red (サスペリア2)

監督:ダリオ・アルジェント

主演:デヴィッド・ヘミングス

イタリアの映画監督、ミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』に主演したヘミングスが主演で、欲望はイギリスが舞台だったが、今度はイタリアに来て主演。事件に興味を持ちすぎて一人であれこれ調べ始める、というじゃラクターは『欲望』と似ている。

本作はグロテスクな殺害描写とゴブリンのカッコいい音楽などが一見際立った特徴に見えるが、煙や粉塵、湯気などを映画的な細部として画面に取り入れる愚直さ(エスプレッソメーカーの湯気でヘミングスが火傷しそうになったかと思えば、熱湯による湯気で鏡を曇らせる面白い演出があり、またヘミングスのピアノに天井から粉塵が降ってくるような繊細な演出)があって、個人的にはお気に入りの一本だったが、大スクリーンで見てすごい盛り上がるかというとそうでもなかった(終映後は拍手喝采だったが)。というのも、やっぱりショットが少し弱いのだ。良いショットもあるにはある。田舎町に住む作家が殺されるシーンでは、暗闇のなか彼女の顔がちょうど光に照らされるタイミングで背後から殴られるように設計されていて見応えがあるし、男がゴミ収集車に引きづられる場面もよくできている。それでもやっぱり空振りショットが少し多い。ヘミングスが空家を捜索するシーンではカット割りが恐ろしく適当だ。まぁこの手の映画にそんな注文をつけるほど野暮なことはないし、十分に楽しんだので良しとしたい。