監督:アリーチェ・ロルヴァルケル
出演:ジョシュ・オコナー、アルバ・ロルヴァルケル、イザベラ・ロッセリーニ、キャロル・デュアルテ、ルー・ロイ・リコルネ
撮影:エレーヌ・ルヴァール
『幸福なラザロ』のアリーチェ・ロルヴァルケル、待望の新作。昨年のカンヌで上映されて無冠に終わっていたのだが、パルムドール受賞作などとは比較にもならないほど素晴らしい。撮影は前作に引き続きエレーヌ・ルヴァールがフィルムで撮っていて、冒頭の列車のシーンからして極めて美しい。ゆったりとしたパンとトラベリングでフォローしていくスタイルで、時々すごくインパクトのあるクローズアップもある(船のシーンでのアルバ・ロルヴァルケルのショットなど)。
ジョシュ・オコナー演じる主人公がちょっと軟弱な感じで、周囲の人間に振り回されるようにして自然に物語が四方八方へと流れていく。墓掘りの仲間達、アンティークバイヤーの友達を自称するメロディーという名の女性、元恋人の母親とそこに居候するイタリアという名の女性、時折挿入される映像に出てくる元恋人など、これほどヴァラエティ豊かな登場人物を目にする映画も今時珍しい。個々のストーリーの説話的なつながりは非常に緩いが、墓、遺品、廃墟、幽霊といったテーマでつながっていると言えるだろう。一番重要な墓掘りのエピソードでは、光が入った途端に色褪せていく壁画の描写が挿入され、「They are not made for human eyes」というセリフとともに、遺品を掘り返すという人間の業を鋭く捉え、中盤のクライマックスともいえる海のシーンではまるで『水を抱く女』のラストショットのごとく、静かに海へと沈んでいく「視線」が強調され、過去の映像の挿入とともに、イタリア的陽気さのなかに「死」の匂いが濃厚に立ち上ってくる。ラストショットの必然性には感動した。
上述したような美しい撮影を基調としながら(夜の海辺の撮影が大変美しい)、サイレント風のジャンプカットを入れたり、EDM風の音楽でリズムをつくったり、カメラが上下に反転するキャッチーなショットを入れたり、シリアスと見せかけて突然ふざけはじめたりと、なかなかケレン味もある作品なのだが、一方で突発的なアクションにより緊張が走る演出もあり(冒頭の列車でのシーン、イザベラ・ロッセリーニが実の娘に水をかけるショット、彫刻をめぐるアッと驚くアクションなど)、物語と演出いずれもがヴァラエティに富んでいる。
もっとも感動的なのが、イタリアという名の女性との最初の出会いでは、イタリアが(なぜか)椅子をぶっ壊してるのに対して、再会する場面で彼女は椅子を作っているのだ。
★★★★★★★★★☆