アメリカ在住MD PhDの映画日記

映画を見る合間に膠原病の研究をしています

バルカン超特急 The Lady Vanishes @ Dryden Theater

監督:アルフレッド・ヒッチコック

マーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレーブ、メイ・ウィッティ

製作 1937年

 

かなり前に見た記憶があったのだが、内容としてはクルッと回るからくりボックス以外何も覚えていなくて、またあんまり楽しめなかったような記憶があり、しばらく敬遠していたのだが、35mmフィルムでの上映とのことで見に行った。

ヒッチコックのイギリス時代は、『三十九夜』が最高傑作という感じで、このバルカン超特急もよく双璧と評価されていたが、今回見て確かに相当な傑作であることがわかった。ついでに言うと、若い時に見ても楽しめんだろうと妙に納得した。

とにかくショットの運びがうまい。『三十九夜』や『見知らぬ乗客』、そしてカラー時代の黄金期の作品群は、まずもって脚本が出来すぎており、かつその旨味をあっと驚く視覚的芸当でもって描くので、とてもキャッチーだし、特に集中せずとも楽しめてしまう。しかしこの『バルカン超特急』については、お話自体はだいぶ色褪せたミステリーで、終盤の客室移動のアクロバティックなアクションをのぞけば、それほどキャッチーな見せ場があるわけでもない。むしろ、客室内での会話、視線の演出、音の演出、煙、ドアの開閉といった細部の演出が類を見ない完成を見せている。前半のホテルのシーンで、メイ・ウィッティ演じるおばあさんが、路上の演奏家に向けて小銭を落とす場面の何たる見事な演出。

それにしても、「気の良いイギリスのおばあちゃん」というのは一つの立派なジャンルだね。メイ・ウィッティが再び現れたときの安堵感たるや(笑)

それから、終盤にメイ・ウィッティが逃げる場面があるけれども、あれも見事なもんで、ああやってロングショット一つで処理すれば、余計な演出せずとも観客は思わず息をのむんだよね。映画っていいですね。