製作 2023年 フィンランド
監督:アキ・カウリスマキ
主演:アルマ・ボウスティ、ユッシ・ヴァタネン
前作の『希望のかなた』が金熊賞間違いなしと言われたものの銀熊賞に終わってしまい、代わりにハンガリーの『心と体と』が受賞した、という小ネタが『心と体と』のパンフレットに書いてあったが、なんかカウリスマキが今度こそと思って『心と体と』のような映画を作ったようにも思えなくもない(たぶん違うw)。
まずもって色使いの美しさをあげるべきだろう。
アルマ・ボウスティの着ているライト・ブルーのコート、そして彼女が住む家の少しペンキの剥がれた黄色の外壁、内装の赤いカーテンなど、労働者階級でありながらオシャレ、という点が映画としても、あるいはキャラクター設計としても効いている。
対するユッシ・ヴァタネンはいつも他人からの借り物でなんとかしているのだが、それだってまぁまぁ小洒落たカラーシャツなのだ。
時折挿入される街の全景を映した俯瞰ショットも見事なものだが、やはり酔っ払ってバス停で眠っているヴァタネンをバスの灯りが照らす場面が最も印象的だ。あるいは、スーパーをクビにされたボウスティと彼女を庇った女性が、手をつなぎながらスーパーを去っていく場面も感動的。
アルマ・ボウスティは、ザンドラ・ヒュラー的な魅力があるように思う。
さて、映画においては、「心変わり」は映画を止めてしまうため、禁物であり、心変わりは映画の最後にしか起きないか、あるいは心変わりをした人物は死ぬしかない。
でも死んだらあんまりなので、この映画ではこうするしかない。という点で、実に教科書通りの脚本構成だ。カウリスマキはよくわかっている。
メモ帳が落ちて風に飛ばされる、というような細部の描写が全編を通してそれほどない、というのが少し寂しいとは思った。
アカデミー外国語映画賞落選。???