アメリカ在住MD PhDの映画日記

映画を見る合間に膠原病の研究をしています

オッペンハイマー @ The Little Theater

これは正直、NHKスペシャルで良いんじゃないかと思ってしまった(暴論)。

クリストファー・ノーランという人の映画は、ダークナイトライジングで追うのをやめてしまったのだが、とにかく企画力と統率力において映画史に残る才人だと思う。バットマンをシリアスな社会派映画として撮ること、物語の階層や時間の階層をまるごと映像化しようとすること、と思いきや重要な歴史を映画化すること。こういうのをいちいち実現するのには恐れ入る。

しかし久しぶりに見ても、相変わらず締まりのないショットがひたすら続くなぁという印象ばかりが残る。室内空間の設定が適当すぎて必然性がなく、性急なカッティングで語られる会話劇はただひたすら疲れる。今回はここに、白黒とカラーの時制を交錯させるオシャレな編集をしているのだが、『J・エドガー』あたりと比べてみれば、その陳腐さがすぐにわかるだろう。

しかし俳優陣がなかなか豪華で、ジョシュ・ハートネットが知らぬ間に良いおっちゃんになっていたり、友情出演みたいなケネス・ブラナーが最もダンディで素敵だったり、フローレンス・ピューが素晴らしい存在感を発揮していたり、逆に助演男優賞がなんでこいつ?と思ったりした。助演女優賞エミリー・ブラントの方がノミネートされていたが、何の印象にも残らない。『フェラーリ』のペネロペ・クルスの方が5,000倍卓越している。

 

ちなみに、映画におけるオッペンハイマーの「反省」は、広島・長崎の悲惨よりは、その後の冷戦、軍拡競争に向けられているように見えた(最後のI believe I didというセリフと、地球を炎が覆い尽くすCGも、そういう解釈の方がしやすいように思われる)。日本はその後、アメリカの核の傘のもとで奇跡の経済成長を遂げ、原発をせっせと輸入し、今に至る。

 

★★★★☆☆☆☆☆☆