監督:カラン・カンダリ
出演:ラディカ・アプティ
イギリスにとんでもない才能をもったインド人がいる。北野武+ウェス・アンダーソン+アリーチェ・ロルヴァルケル+カウリスマキというような作品だが、同時に主人公がモップを持って歩く姿はチャップリンでもある。
オープニングで列車の通路を縫うようにカメラが進み、右にパンすると座席に座るウマ(ラディカ・アプティ)を捉える。それで正面のフルショットに切り替わってタイトルイン、なのだが、これは正直微妙だと思った。フルショットにする必要があるのか、という疑問。本編も不必要にカットを割るのだろうかという心配は、しかし見事に裏切られる。徹底した内側からの切り返し、そして外から切り返す場合でも片方の顔は画面外に放り出されており、この居心地の悪さがたまらない。あるいは手を伸ばして金をせびるウマに対して、意地悪く握手で応じる夫の描写では、一瞬のインサートで手のクローズアップを捉えるが、その光の感覚にも驚嘆する。そもそも冒頭15分ぐらいは全くセリフがないのだが、それも決して思わせぶりなそれではなく、説明をせずに人物を、論理的つながりを欠いた断片的な挿話によってのみ表象していく姿勢は全編において徹底している。ところどころ、本気で何考えてるかわからない行動がたくさんあるのだが、しかしウマがモップを持って歩いているだけでだんだん画面がエモーションに満たされていくのだから、映画に物語的本当らしさなど一つも必要ないのだと思えてくる。
色々細部を書けばキリがないが、一つ、ウマが初めて外に出るシーン。ウマが外に出ると、道端のウンコを踏んでしまう。それで急いで家に戻ってバンっとドアを閉めると、上からちゃんと葉っぱが落ちる。こういう細部がたまらない。
★★★★★★★★★☆
