お目が高いって言われたい!〜アメリカ在住MD PhDの映画日記〜

映画を見る合間に膠原病の研究をしています

Pandora's Box パンドラの箱 @ The Little Theater

監督:G・W・パブスト

出演:ルイーズ・ブルックス



9月29日はInternational Silent Film Dayということで、珍しくThe Little Theaterでの上映。

上映前にキュレーターからいくつか小話があったのだが、本作の主演女優であるルイーズ・ブルックスは、映画女優引退後、なんとこのロチェスターに移り住み、イーストマン・ミュージアムで研究員としてリサーチ活動に励んでいたとのこと。またこの映画とは特に関係ないが、イーストマン・ミュージアムのDryden Theaterはおそらく全米で最もサイレント映画の上映をしている箱らしい!

ということで、こちら『パンドラの箱』だが、まず何より感激するのが、いわゆる「設定」を説明する字幕がゼロであることだ。キートンだって、何かしらの舞台背景の説明が入るわけだが、本作には全くそれがないのだ。いきなりルイーズ・ブルックスが登場し(最初からイマジナリーラインが無視されているのも驚く)、彼女の部屋にさまざまな男性がやってくる、という出だし。

ブルックス演じるルルと結婚することになる博士は、彼女を不幸の元と考えており、結婚式の夜に彼女を殺そうとして、逆に彼女に殺されてしまう。すると次にルルの裁判があるが、騒動のどさくさに紛れてボーイフレンドのアルヴァ(博士の息子)と逃げたルルは、フランスの酒場でその日暮らしに勤しむ。アルヴァはギャンブルに精を出す毎日で、あるときルルが身売りされそうになり、金を稼ぐためにアルヴァがイカサマを試みるが途中でバレてしまい、連れていかれそうになるが、これまたひと騒動があり、どさくさに紛れて船に乗ってロンドンへ。そこでまた貧乏な生活をルルと続けることになる。

と書いてみると、あらすじは整然としているように思われるが、やはりサイレント映画的な、異様に激しい感情の起伏が続き、物語の進行は映画的というよりはオペラ的だ。

撮影は実に力が入っていて、全編コントラストの強い美しい映像が続く。特に、クローズアップのときに、白目がピカっと光るという演出が随所に見られるが、これなんかはハワード・ホークス教授と美女の有名なショットを思わせなくもない。しかしこうした細かい演出以上に、モブのさばき方が圧倒的だろう。ルルが出演する舞台では、舞台演出が左右前後に駆けずり回り、その周りを大量の役者と美術役が移動し、時に巻き込まれ、時に視線を遮り、このへんのcoreographはちょっと神がかっている。続く裁判直後の大騒動、イカサマが発覚してからの大乱闘も大した迫力だが、しかしこの前半の舞台での演出が突出していた。

それにしてもラストはとってつけたような、そして何か作り手がもう力尽きてしまったかのような、あっけないラストであり、観客もみな「え、そこで終わり!?」とちょっと驚いていた。

オペラ的と書いたが、伴奏がめっちゃ重厚な協奏曲が全編鳴り響いていた。(それが上映当時と同じなのかわからないが)。入りは4-50人ぐらい。