監督:オースティン・ピータース
撮影:クリストファー・リプリー
出演:エリザベス・バンクス、ルイス・プルマン、ルイス・ジェラルド・メンデス
何も知らずに見に行ったので、てっきり美容業界の闇を暴くスリラーなのかと思いきや、LAの美容サロンを舞台にした実にしょーもない小競り合い映画であったが、これが大変面白かった。エリザベス・バンクス演じるキャリア絶好調の美容サロンのオーナーである主人公の周りに、向かいに店を構える同業種の男、自称ライフ・コーチング専門家の男、用心棒的な佇まいの車屋のおっちゃん、テレビ出演とバーターに関係を持とうとするキャスターなど、実にいかがわしい男達が次々現れる。彼らの顔がいちいち面白く、キャスティングの勝利ではあるが、実は一人一人をカメラに収めるその方法が実に良い。ちょっとした照明の工夫、窓枠を使ったフレーミング、あるいは拳銃を購入するシーンでは仰角ショットを取り入れるなどなかなか芸が細かい。あるいは音の演出にもそれなりに工夫があり、エリザべス・バンクスが外からFワードを叫ぶ場面では、微妙に声が聞こえるようになっていたりする。キャスターの男がテレビ出演をえさに関係を持とうとして普通に一蹴される場面でも、リバースショットで実にコミカルな画を見せてくれる。
また、エリザベス・バンクスが、美容業界の白人のブロンド髪の神経症気味の女というよくあるキャラクターなのだが、彼女がそれほどアホになりすぎず、神経衰弱でおかしくもならず、まぁまぁ頭を働かせつつ頑張りつつも、やっぱりダメ、という絶妙な塩梅におさまっている。彼女を心理的に翻弄するのではなく、ショットによって色付けしていると言えば良いか。例えば店の鏡の前で拳銃を構えるショットでは、カッティング・イン・アクションでちょっと緊張感を上げた途端、彼女が拳銃よりも顔のシミを気にし出すというおふざけぶり。その後のシーンで実際に自宅に侵入者が現れた場面では、彼女の姿が鏡に二重に映し出され、これもスリラーでありながら、前の演出も効いて、ちょっと笑える構図なのだ。
バンクスの店の向かいに同業の店がオープンして、顧客を次々取られていくというのが物語の起点になっているが、この(古典的/映画的な)位置関係をもうちょっと面白く見せられればなお良かったと思う。しかし上述のような、非常にきっちりした仕立てのなかで、おふざけもあり、かつあまり盛り上げすぎない慎ましさもあり、これは十分傑作と言って良いと思う。
それにしても、LAの真昼にシャツを羽織った男が現れるとそれだけで胡散臭さ満点になるのは、アルトマンのせいなのか知らないが、こういうのは東海岸では絶対成立しないだろう。
★★★★★★★★☆☆(ちょっとおまけ)