お目が高いって言われたい!〜アメリカ在住MD PhDの映画日記〜

映画を見る合間に膠原病の研究をしています

Longlegs @ The Little Theater

監督:オズ・パーキンス

出演:マイカ・モンローニコラス・ケイジ、アリス・ウィット

 

※ちょいちょいネタバレ

これはなかなか怖い。怖い理由ははっきりしていて、これがいわゆるコントロール系の物語だからだ。人間がコントロールされてしまう、そしてコントロールされつつも完全に自我を失っていないがゆえに、自分のやったことを記憶している、というのが人間にとって一番怖いのではないかと思う(北九州一家殺害事件の恐ろしさもここにある)。このへんの怖さ、悲惨さを体現するのが主人公の母親役を演じるアリス・ウィットで、彼女の口元の動かし方がいかにも人形的なそれで、うまいディレクションだな、と思う。

 

確かに新人女性FBI捜査官が主人公のスリラーという意味では、宣伝通り「羊たちの沈黙系」なのかもしれぬが、実際の物語はCUREなどの黒沢ホラーを思わせるところがある。それでいうと、鈍器でボンと殴るショッキングなシーンなんかも出てくるが、こういうのは黒沢映画より怖いのがあるだろうかという感じなので、まぁこんなもんかという感じ。

 

画面サイズの使い分けはとても良いと思う。過去の描写が断片的に正方形のスクリーンで示され、現在のパートはシネスコ画面になるのだが、正方形のスクリーンが視界を限定する役割を果たしているのに対して、シネスコでは広角レンズを多用した幅の広い画面になっている。そしてこうした広角レンズを用いつつ、人物の切り返しがほとんど内側から行われ、一人一人を別々に撮っているのだが、こうなると、各キャラクターが分断されたまま、がらんとした空間に取り残されているような印象を与えるだろう。
主人公の過去と現在が、プリントされた写真によってつながるという展開も、上述した画面サイズの相違をふまえると面白いアイデアだと思う。

 

全体的に良いものの、これぞ!という瞬間はあんまりないような気がしたが、ひとつだけ。マイカ・モンロー演じるリーが、上司の家に招待される場面で、女の子が「私の部屋みたい?」とたずねるが、極度の人見知りのリーは無言のまま。が、次のショットでリーが女の子の部屋でベッドに座っている。急にこのショットが来るので、画面のアンバランスさもあいまって非常にユーモラスな演出になっている(コメディの常套手段)。で、クライマックスで同じような演出がもう一度ある。上司の家にリーが駆けつけると、アリス・ウィットがなぜかいる。玄関のドアが閉められたあと、急にアリス・ウィットのバストショットがつながれるので、観客はハッとさせられる。これはやってることは上記のユーモラスな演出と同じなのだが、その効果は正反対となっている、という意味で優れていると思う。

ニコラス・ケイジはなんかこの路線がウケているが、いや、どうすかね。笑っちゃうけど。

 

★★★★★★★☆☆☆