監督:パヴェウ・パヴェリコフスキ
出演:アガタ・クレシャ、アガタ・トシェブホフスカ、ヨアンナ・クーリグ
COLD WARで満足してしまって、こちらをずっと見ないままにしていたのだが、配信で見てみた。
前半は、共産党政権下の元敏腕検察官であり、現在はほぼアルコール依存症のヴァンダと、修道女のイーダのロード・ムービーである。車中の二人は常に分断された画面で提示され、行動様式も異なるため、ヴァンダが民家の男を問い詰めている間、イーダは納屋の方へと行ってしまうし、イーダが教会に立ち寄っている間、ヴァンダはカフェで酒を飲んでいる。その各々の独立したシークエンスがそれぞれに美しいのが良い。特に、ヴァンダがカフェで、「あちらの男性にもショットを一杯」と注文するのだが、カメラはヴァンダを捉えた固定ショットのまま持続する。そして、少しの会話のあとにヴァンダが男性の方を向くと、男の正面のクローズアップにつながれる。と、こういう演出があったあと、今度はホテルの館内のレストランにおいて、ヴァンダが店員の女性に、ある男について尋ねると、バーテンダーに聞くよう言われる。するとヴァンダが立ち上がって、おそらくはバーカウンターの方へと向かうのだが、ここでサックスの音が再開し、彼女が行った先をカメラは追わないまま、むしろサックス奏者とボーカル(COLD WARで主演したヨアンナ・クーリグ)のショットへとつながれる。カフェとレストラン、どちらもオフ空間が最後に提示されるが、その対象が微妙に異なるわけだが、その理由は何なのか。
イーダが車の中で眠ってしまい、目的地に着くとヴァンダが窓を叩いて彼女を起こすのだが、ここであえて車内で起こさず、窓越しに起こす、というところに二人の距離感が表れているのだろうか。
イーダがサックス奏者の男と初めて出会うのは、彼がヒッチハイクをしていて、彼女達の車が彼を乗せる場面においてだ。イーダがバックミラー越しに彼に視線を送るショットはあるが、彼がイーダの方を見ているかはわからない。二人がようやく対面するのは、夜にヴァンダといさかいをおこしたイーダが、階下のレストランへやってきて、バンドが演奏しているところを柱に寄りかかりながら眺めている場面だ。サックス奏者は最初、彼女に背を向けているのだが、カメラはサックス奏者の顔の側にまわって、手前に彼の顔、さらに奥に彼を見つめるイーダの顔を捉える。その後二人がめでたく視線を合わしたのかはわからない。ところで、いま言及した縦構図は、直後の場面でイーダがベッドに横たわったまま、前方で眠っているヴァンダを見つめるシーンでも採用される。この構図は何なのか。
謎が多い傑作。